あたしが幸せだと、きっと誰かが不幸になります。
誰かが幸せだと、あたしはきっと不幸になります。

皆の幸せを願っているのに、どうしてもそれが叶わなくって、目の前にある勇気さえあたしは受け止められないのかもしれない。

幸せって、正義って、愛って・・・。
正しいことはいったい何処にあるんだろう?







ただいまのいえる場所
第4話 最後の武士(前編)





今自分の世界ではどうなってるのかとか、まだまだ分からないことだらけだけど帰る手立ても見つからないまま一ヶ月がたった。
慶次はその一ヶ月であたしに武術と馬術を教えてくれた。まあ、あたしが無理やり頼んだんだけど・・・。

理由は、一言で言えば恩返しっていうか償い?みたいなね

慶次は無償でそばに置いてくれる予定だったみたいだけど、それは嘘をついているあたしにとってすごく居心地が良いとは言えなかった。
だから、護衛でもなんでもいいから仕事が欲しいって頼み込んだんだ。
もちろん、戦人の慶次は行くところといったら戦場に決まってる。慶次の屋敷とかあったとしても殆ど宿暮らしだから仕事がないし、慶次の役に立てることといったらあたしが戦場に立つことくらいしか思いつかなかった。
だからあたしは護衛って言うことで傍においてもらうことになったんだ。
もちろん慶次は快くは承諾してくれなかった。あたりまえなんだけどね。
血も死体も見たことも無いあたしを心配してくれてのことだ。

でも、二時間に続く長い長い話合いの結果、あたしの半端ない決意を慶次はちゃんと受け入れて講師をしてくれた。
ただ不思議なことに、こっちの世界に居ると何故か体が軽くて
えーっと・・・、なんていうか性能アップ?
って感じで体力はすごいあるし、いつもの防具とか付けてても走る速度が変わらなくなった。腕なんか見た目は変わってないのにむっきむきだし・・・。(なんか嫌だ

とにかく、それも影響していてか一ヶ月で慶次が驚くほどの成長を見せた。
あたしが一番ビックリしてるんだけどね。で、ご褒美として慶次が白雲って馬と雲次という刀をプレゼントしてくれた。無いと困るものだし。
刀は慶次によると鎌倉時代頃のもので俗に言うなかなかの業物とか言うらしい
金色の柄に真っ黒な漆塗りの鞘が綺麗だ。そういえば柄の先にあった虎の彫り物は慶次の趣味なんだろうな・・・













とにかくそんな経緯もあって、あたしと慶次は長篠の地に足を下ろしているんだけど
こんな酷い光景は見たことが無い。

「撃てぇ!!!」

組頭の掛け声とともに一斉に銃声が鳴り響く。

むせ返る様な血の匂いと火薬の匂いが鼻を刺す。そして馬防柵の間から見えるものはしいて言うなら「地獄」だ。
武田騎馬軍団の数え切れないくらい多くの馬と人の抜け殻。これが今まで生きていた人だと思うと、胸の置くからこみ上げてくるものに堪えられなくなる。
いくら覚悟をしたといっても、やっぱり死体も血も怖いし気を抜けばいつ吐いたっておかしくない。
まさか初戦からこんなものを見るなんて想像もしていなかった。
やっぱり現代で生きてきたあたしが戦うなんてちょっと選択を誤ったきもする・・・
はっきり言えば、こんな所から一刻も早く逃げ出したくて握り締めてる掌が変な汗をかいている。
慶次が反対した理由が今ならわかる。
別に、ここはリアルじゃないから人を切ることに凄い嫌悪感はない。
だけど血を見るのは慣れないと無理だ。って、別に慣れたいわけじゃないけど。

生きていく為に多少は慣れなきゃいけないかもだけど、ここまでグロイのは勘弁してよ・・・。

ふと顔を上げると、馬防柵のすぐ向こう。多くの死体の中で必死に槍に手を伸ばす姿があった。
紅い鎧を身にまとい、額には鉢巻みたいなのをした意思の強く男らしい顔つきの人

(・・・あれは、幸村だ。くのいちは、いないのかな?)

どうでも良いような、疑問を抱えたまま幸村を見てるとなんだか居た堪れない気持ちになった。こんな絶望的な状況で、もし助かったとしてももう武田に勝ち目がないことはきっと幸村自身が良く分かってるはずなのに・・・・

「・・・ふっふっふっふっふ」

あたしのシリアスな考え事中に魔王・信長の気味の悪い笑い声が響いた。勘弁して欲しい。
ちらりと慶次を見ると目が合った。すると耳元で小さく
「俺はあいつを助ける。だからお前はあいつの槍を拾ってやってくれないかい?」

その言葉を聞いて安心した。あたしも幸村の死ぬところなんか見たくない。
だって、戦国1の時からのファンだし、さなくの大プッシュもしてる。
そして何より、最後まで諦めない信念の強さを大切にしてあげたいから

あたしが小さく頷くと、慶次はそれに満足したようにあたしの背中を何度かさすってから松風にも合図を送った。
あたしも白雲に合図をする。小さく嘶いた。

その瞬間に慶次は馬防柵を打ち破って(まあには松風だが・・・)幸村をつかみ取れる体制をとる。
あたしもその後をすぐにおった。

「撃て!!撃てぇ!!!」

その時、後を追うように組頭の上擦った声で命令が下された。
あたしと慶次に向かって弾が飛んでくる。


・・・・半端無く恐いんですけど!!ちょっと!!


前傾姿勢を保って何とか弾にあたらない努力をしつつ、そのままの体制で横に体を倒し手を伸ばす。
槍をつかんだ瞬間に見えたのは、初めて間近で見た遺体の泥だらけで苦しそうな顔だった。
一瞬槍を落とすかと思った。



多分、戦だから仕方がない。でも、だからってここまでやらなくても良いんじゃないだろうか?
もっと方法はあったんじゃないだろうか?
それに、信長は笑っていた。あの目は何か面白いものを見ている、そんな感じだった。
あの人が治める世って、なんなんだ?
あの人は一体何の為に天下を取るんだろう・・・
ふと、そんな疑問が浮かんだ時、慶次が幸村を抱える手を離した。
・・・その高さから落されたら絶対痛いと思うんだけど。

そして、慶次はいつもの迫力3割増(当社比)で幸村に名乗りをあげた。

「俺は織田家武将、前田慶次!」
幸村は驚いたように顔を上げ、ちらりとあたしを見てから、視線を戻し慶次と目を合わせた。
「・・・が、たった今肩書きを無くしたただの戦人だ。あんた、名は?」
先程よりも押さえたいつもの慶次の声音で幸村に尋ねる。
「真田・・・幸村・・・」
右手が痛むのか、幸村は少し顔を歪ませながら左手を添えた。
そして、もう一度あたしを見る。あ、自己紹介しろってことか?
「あたしは前田慶次の護衛兵、です」
自己紹介を軽くしてから手に持っていた槍を投げると、幸村はそれを見事キャッチしてじっと見つめた。
慶次がまた口を開く。
「生き残ろうぜ、幸村!」


あたしは刀を握り締めた。

自分を守るため、慶次へ恩返しをするため。幸村の勇気を守ってあげるために。
血とか死体とかはやっぱり嫌だけど、そんなこと言ってたら何も始まらない。
あたし達はまだ生き残っている武田の兵と合流した。



言い訳
難しいです。
幸村は趙雲と微妙に被る。
今回はくのいちっていう幸村のストッパーが居ないので
彼暴走しほうだいですね。
あほなゆきむーが書けたら良いです。


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